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願いを叶えよう。ただし、俺の声が聞こえるなら。
「おい、隼人。起きろ」
「…ん、…ん?」
人の眠りを邪魔する男の声。あいつしかいない。
「…何の用だ。巧斗」
「何の用だっじゃねぇよ。午後の授業サボって何しているかと思えば、屋上で昼寝かよ」
あからさまなため息を吐いた少年の名は、神倉巧斗。薬剤師の息子で跡継ぎ。お互いの父親が幼馴染みだったことから、俺達も幼馴染みになった。
「これが、佐野総合病院の跡継ぎだと思うと泣けてくる。イヤ、心配になってきるねぇ」
「はぁ~。帰るか」
これ以上、嫌味を聞かされるのは御免だ。仕方なく、半身起き上がる。
「で。何でお前は、ここにいるんだ?」
「朝言っただろ。親父に頼まれた物があるから、病院によるって。隼人も、柚葉ちゃんの見舞いに行くんだろ。じゃ、俺もってね」
なるほど。そういうことか。
佐野総合病院は、四階建てになっており、一番の特徴は、中庭にある大きな桜の木。今の季節は、満開になり、患者さんを癒している。
「俺、先に院長室に顔を出してくるわ」
ロビーで巧斗と別れた隼人は、三階の病室の廊下を歩いている。
あの日から、一年が過ぎ、俺達は、高校二年生になった。
柚葉は、眠ったまま…
目的の扉を開く。そこには、目覚める気配すらない、もう一人の幼馴染み。坂見柚葉が眠っている。
この部屋が、一番桜がよく見える。
「また、お前の好きな季節になったぜ」
返答はない
「中庭の桜も満開だ」
柚葉が、好きだと言った桜が…
高校に入ってすぐ、柚葉は事故にあった。通学するバスに、トラックが突っ込むという、大事故だった。
手術は、成功している。意識が戻りさえすれば…
トントン
「お邪魔かなぁ~」
考えの淵から現実に戻す声。全く、タイミングの良い奴だ。
「そうだな。邪魔だ」
「あ!ひっでぇのぉ~」
笑いながら部屋に入ってきたのは、巧斗だけではなかった。
「親父も珍しいな」
「私は、院長だぞ。その言いぐさはないだろう」
隼人は、肩を竦める。
「うん。顔色もいいね。花でも買ってくれば良かったかなぁ~」
巧斗の言葉に隼人は、ため息を吐きたい気分になった。こいつにだけは勝てない。
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