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それはまだ、私が彼を変わらずに思っていることを証明していた。
会いたくて会いたくて仕方がないことを証明していた。
彼が私の前から居なくなった時、私は全てが終わってしまえばいいと本気で思った。
いっその事、世界が破滅してしまえば良いと。
だけど、そんな私に彼は涙を堪えながら「幸せになれ」と言った。
だから私は、前に進まなくちゃいけない。
彼がそう願ったのなら、私は…
私は、意地でも幸せにならなくてはいけない。
冷たくなった頬を伝う涙が温かい。
冷たい空気を肺一杯に吸い込んで、ギュッと携帯を握り締める。
重たい足を動かして、ベランダの反対側にある蛇口を捻り、水が落ちる先をしばらく見つめる。
そして、視線の中に携帯をそっと置いた。
水にあたった携帯の画面はすぐに暗くなり、使い物にならなくなった。
これでいいんだと呪文のように何度も繰り返し、もう一度椅子に腰をおろして目を閉じる。
真っ暗な暗闇に愛した人の…、いや、今でも愛している人の姿が浮かんだ。
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