Phase 1 +出撃+

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 「あら、守永さん。今日は早いのね」  エリアEのとある大学病院、人気の少ない昼時に受付に現れた陸斗を見て、受付の看護士さんが声を掛けてきた。  「今日は休講だったんで」  「まめねぇ、家の亭主とは大違いね。ハイ、八三五号室よね」  礼を言って鍵を受け取る陸斗。顔パスとはこの事かな、と苦笑いを浮かべながら歩き出す。ロンドンには珍しい日系人が毎日通っていれば、流石に覚えられもするか。  既に日課と化している七階分の階段の昇り降り、上京したあの日以来欠かさず訪れた病室への道のりを慣れた足取りで上って行く。  あれから一年、考えもしなかった事件が立て続けに起こった。恋人との別れ、テロの激化、大学の軍有化、そしてレギオンの完全軍用化。旧アメリカに当たるエリアAと旧ロシアに当たるエリアMが始めた戦争を火種に、世はまた戦場と化そうとしていた。  "Right Evolve-General Induce Only Notion"、通称レギオンは、今となっては戦場を跋扈する戦闘マシンとして認知されているが、本来は平和の象徴として創られた大型救命用ロボットだった。  今から十九年前、"バベル再建計画"と同時に起こった第四次世界大戦。バベル再建や資源問題を巡って東西南北あらゆる国々が死力を尽くした争いは各国の戦力不足とバベル完成を機に終結した。バベル完成により、人々は脳の奥深くにしまい込まれていた統一言語を思い出し、太古の伝説のように互いに手を取り合った。
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