わたしとネコ、と悪魔

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 初夏。湿度が高く不快指数も比例して高くなるような梅雨を抜けて、清々しい陽光が通学路に降り注いでいます。太陽も天頂には届かず、日差しも一日の中ではどちらかと言えばまだ柔らかい時間帯です。  早朝の冷気を孕んだ空気はもう温まっていますが、これからもっともっと暑くなります。そう考えると、この空気の感じは限定ものです。昼には売り切れなのです。  昼の暑さを考え、ちょっと気を落としながら閑静な住宅街を歩いていましたら――。  にゃー。  マンションの近く、路傍に捨て猫です。白・黒・茶の入り交じった体毛の猫です。黄玉のような目にある縦の筋、瞳孔がこちらを見ています。猫の入ったダンボールには『ミカン』と大きく書かれています。仔猫……というにはちょっと躊躇う程度に育っているようなので、窮屈そうに見えました。  にゃー。  鳴き声に何処となく悲壮感が漂っている気がするのは私の気のせいでしょうか。私はこの猫を可哀想だと感じています。もしかしたら、そういった心境が猫に悲壮感があると思わせるのかもしれません。 「ねえ、その箱から出ないの?」 声色に気を付けて声を掛けてみたら、耳がぴくりと私の方に動きました。私の話を聞いているようです。うんうん、人の話を聞く時はリアクションが大事です。字面通りに耳を傾ける猫の反応は可愛らしいものです。 「ねこさんの考えでそこにいるならいいのですが……そうそう、予め断っておきますが私は拾いませんよ」  このように猫を拾わない宣言をしておかないと、何かの間違いで拾ってしまうかもしれません。幼少の時分に捨て猫を見たときに拾って帰って、母に飼えないということを告げられた時のショックは相当なものでした。    元いた場所に置き去りにするという、一度伸ばした手を引っ込める行為に罪悪感も覚えました。もし私が家に連れて行った間に猫好きの方が通っていたら拾われたものを、その機会を奪ってしまったのです。その時の経験から、私はあえて猫を見捨てます。
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