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炎と月明かりに照らされる女の髪は高い位置で括られ、その先が背の辺りまである。前髪を上げ赤い櫛で止めているそれは、邪魔にならないようにした結果だった。女の鳶色の双眸は天に坐す月を見つめている。
なにを考えているのか分からない。ただその目はひたすらに真っ直ぐだ。男は女の横顔をまぶしそうに見つめ、やがて視線をそらした。
月が隠れる。部屋の中がぐっと暗くなった気がした。
「……壬生浪士組」
ジ、ジと蝋燭の燃える音と共に静かに響いた言葉に、女は眉をひそめる。
「潜入しろと?」
「ええ」
男の漆黒の目と、同じ色の長い髪。それが蝋燭の明かりに照らされて燈色になっている様はなんとも言えない美しさをかもし出していた。女のような口調でなければ、間違いなく世の女性の注目の的であったはず。まさに残念な美形だ。
――などということは言える筈もなく。
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