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「…私、集まりあるから」
悲しそうな表情で手を振って、菜穂子は私から離れた。
母は、横を通り過ぎる菜穂子を見つめていた。
「菜穂子…」
ふと名前を呼ぶと、心がきゅうっと狭くなる。
「麻美、卒業おめでとう。向こうにお父さんがいるの。待ってるから――…
遠くへ霞んでいく菜穂子の背中を見つめるのに夢中だった。
――あのね…
菜穂子はなにを言おうとしたのだろう。
重ねられた指が疼いて、じくじくと熱い。
「麻美、さっきの子は?」
近くで聞こえた母の声、でも私の声は、ずいぶん遠くに聞こえた。
「…お隣りさん」
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