初夏

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初夏

智依は、最高に頭が悪かった。 僕も頭が良いとは言えないけど…平均以上には、できる方だ。 けれど、智依は時代さえ違えば女王として君臨できたんじゃないかとさえ思う、『変な』頭の良さと魅力があった。 頭が良くなるようにだってさ、笑っちゃうよね 智依が前に話してくれた、自らの名前の意味。 字さえ違えど、知恵という響きは彼女に呪いのように縛りついた。 「私、もっと勉強するよ…」 智依が言うと、皆反対したらしい。 「ちーちゃん、スケジュールもいっぱいいっぱいでやってんでしょ?」 「向いてないんだって」 「塾、変えたら?」 などなど。 僕も彼女たちと同じで、反対だ。 体調だけでも気を使ってほしい。 でも、智依の決意を踏みにじることも、したくはなかった。 「ねえ」 帰り道、僕ら二人だけ。夏の湿った空気に、淀んだ智依の溜め息が混じる。 「……ごめんなさい、こんなこと言って、困らせたい訳じゃないんだ…」 「………分かってるよ。」 帰りたくない、なんて言うのは彼女の口癖のようなものだ。 僕が恋人だから言ったんじゃない。 本当に、恐いから帰りたくないんだ。
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