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「…手伝おうか?」
「大丈夫よ。それよりお風呂入っちゃいなさい」
母親が背中越しに言う。
「…わかった」
神奈は一瞬返事を躊躇ったが、ここは素直に頷いておくことにした。
それでもやはり気になってしまい、何度か母の背中を振り返りながらリビングを後にする。
そうして神奈が完全に2階の自室に向かったことを確認すると、母親は静かに持っていた食器から手を離した。
「……どうして…」
シンクに両手をつき、震える声で呟く。
蛇口から、勢いよく水が流れ続けていた。
「…どうしてあの子ばかり…!」
その水音の中に、母親の声は掻き消される。
排水口に、汚れた水が流れていった。
その様子を見ながら、こんな風に嫌な現実もすべて流れてしまえばいいのにと思った。
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