第 1 話

3/27
7193人が本棚に入れています
本棚に追加
/575ページ
「ちょっと。パンダみたいになってるよ?」 あたしが美奈の頬を見て指摘すると、ふんっ、と顔を背けた。そうやってお姉ちゃんは子供扱いする、とかなんとか呟いている。 「仕方ないよね。生きていくためだもん」 やがて諦めたように美奈が言った言葉に、あたしは何も言葉を返せず曖昧に笑った。 寂しい思いをさせているのは重々承知なのだ。 美奈には『夜は居酒屋でバイト』と言っているため知らないけれど、あたしの夜の仕事はお水だ。 といっても体を売るわけではない。 ホステスの仕事だからだ。 両親はあたしが高校のときに交通事故であえなく亡くなり、それ以来あたしたちは二人三脚で生きてきた。 美奈は今年からバイトを始め、そのおかげで今あたしたちは生きている。 あたしがお水の仕事を始めたのは去年の暮れで、それ以前は本当に居酒屋で働いていた。 お水の仕事に入ったきっかけは、美奈が高校に入るとき、学費が必要になったためだ。 だけど、そんなことは彼女には言えない。余計な心配はかけられないから。  
/575ページ

最初のコメントを投稿しよう!