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「リナリア……何でわざわざこんな場所で薬草を調べるんだ?温室で十分だろ?」
床に座り込んでいるリナリアの横から、訝しげに声がかかる。
ちらりと横を見ると優雅に寝そべっているデイジーの姿。
……別に意味なんてないわよ。温室ばっかりだと息が詰まるから気分転換に、こっちに移っただけよ。
あの後すぐに、この森の教会に移った。
温室から必要な最低限の道具だけを持ち出し一日中ここに居ると言っても過言ではない。
一度、温室に道具を取りに戻った時にグレイスがいるのが見えた。
その後ろ姿を見た瞬間、見つからないように逃げ出した。それから、ずっとここにいる。
「……何があったんだ?姉上達も心配している。リナリアの様子が変だと毎日それぞれの影を寄こして聞いてくるほどだ」
……いつの間にそんなことを。お姉様達の影の姿、私はここ数日見たことないのに。そんなに心配しなくても。
ここは王族と一部の人間しか入れない森だから安心だし、私はここが好きだもの。
悶々とするのは、グレイスのことが頭から離れないせい……ううん、絶対に違うわ。あのタルトが忘れられないだけよ。
そう自分に言い聞かせる。
水盤に薬草を入れゴリゴリとすり潰す。
「……リナリア。何を調合している?下痢止めと痛み止めで何を開発する気だ?」
呆れた様子のデイジーの言葉に水盤の中身を覗き込むと、黒い液体が中央に出来上がっていた。
なんで……こんなに水分が?じゃなくて、何を調合してたのかしら?
首をふるふると横に振りデイジーに曖昧に微笑む。
「何があった?正直に話せ。また誰かに何か言われたのか?」
心配するデイジーに、また首を振り否定する。だが訳は話さない。
だって、自分も何でこんなに気持ちが、もやもやするのか、わからないから。
何度もこんなことあったわ。その度に悲しい気持ちになるけど、こんなに、その人のことを気にすることなんてなかったのに。
……少し整理してみよう。何が原因で、こんなにもやもやするのかを。
新しい水盤に、またしても下痢止めの薬草を入れた所で、デイジーが呆れたように教会を立ち去って行った。
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