小六の夏休み

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  「暑ぃ~。海で泳ぎたい」  夏休みの登校日。清掃の作業を済ませ、帰りの会が終わっても、久しぶりに会えたクラスメートとの別れを惜しんで、ほとんどの生徒がまだ教室に残っていた。 「なー、奈臣(ナオミ)。今から行こうぜ、海」  後ろの席に座るクラスメート・進也(シンヤ)に、椅子をグラグラ揺すられながら奈臣と呼ばれた男子生徒が、困ったように振り返る。 「海に? ……俺あんまり泳ぎ得意じゃないし」 「大丈夫! 50メートル泳げりゃ普通に泳げる方だろ。な、決まり。よし、龍次(リュウジ)と玲(レイ)にも声かけよう」 「あっ、待てよ……」  あまり乗り気でない奈臣だったが、強引な進也に勝手に話を進められてしまう。 「玲ー、龍次ー! 海に行こうぜ!」  進也は、座席の離れている二人に、よく通る声で呼びかけた。 「おー、いいね! 行こうか!」  と答えたのは龍次。クリクリとした大きな瞳に、日焼けして所々皮が剥け斑模様になった顔が、いかにもやんちゃ少年といった感じだ。  対して玲は、涼しげな切れ長の目の印象の通り、他のクラスメートより若干クールで大人びた雰囲気の少年である。進也の誘いにもすぐには飛びつかず、まずは側へ行き詳しい話を聞こうとした。
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