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「仁木さんはご存じないんですね。西洋の楽器です。私……バイオリンの音色がとても好きなんです」
春江は、仁木に微笑んだ。
仁木は、これまで春江の悲しい横顔しか見ていなかった。
春江の笑顔を見ながら、自然と笑顔で返した。
「ここにバイオリンがあれば弾いて差し上げるんですけど……こんな体になってしまったから、あっても持てないか……」
二人の周りはこれまでと同じように異形なる者達の叫び声で溢れていた。
しかし、ほんのひとときの安らぎを感じていた。
他愛もない話だったが、春江は仁木と語らうことで、世界とのつながりを実感した。
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