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どこかでベルの鳴る音がして、僕ははっと目を覚ます。
どうやらうたた寝していたらしい。
暖かい春の陽気にあてられたかな。
春眠暁を覚えずとは、現実に則した言葉だったようだ。
クスクスと、女性の笑う声。
正面、白いパイプベッドの上、体を起こしてこちらを向いている。
窓からの逆光で顔がよく見えない。
でも何となく、優しく微笑んでいるとわかった。
「ごめん」
寝顔を見られたのが恥ずかしく、はにかみながら謝る。
今日はずっと話し相手になる約束だったのに眠ってしまったから。
彼女は緩く頭を振ると、
「――――――――――」
口を開くが、声は聞こえない。
それでも、何となくわかる。
許してくれたことが。
「――――――――」
また、彼女が口を開く。
やっぱり聞こえない。
「うん、でも、夢なんかじゃないよ」
僕はそう返し、彼女の頬にそっと手を添える。
その手は鉄と鎖と発条と油でできていた。
機械仕掛けの、しかし人間のそれと全く同じ動きの。
微かに見える彼女の口許が微笑み、彼女の白い手が、僕の手に重ねられる。
どこかで、ベルの鳴る音がした。
これは、僕と彼女の物語の、開幕ベルだったのかもしれない。
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