本の虫

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 おじいちゃんのお父さんは小説家だったらしい。今となっては誰も名前なんか知らないようなマイナーな小説家で、その人はノンフィクションと書いてあるにも関わらずファンタジーな小説を書く事が有名にならなかった原因だろう、とおじいちゃんは言った。それでもおじいちゃんはお父さんの熱狂的なファンだった。例え出版社に認められなくてもどんな失敗作でも、必ず一冊の本の形にする。その誇りがおじいちゃんがファンになった原因だ。例え売れないと分かっていても読むに耐えない失敗作でも、文字を重ねて作った文章達には心が憑く。一回でも心が憑いてしまったモノはどうしても捨てたくない。その人の口癖だったとおじいちゃんが言う。 「日本には八百万の神と言う言葉があり、大事にした物にモノが憑く。と言われておる。つまり父が心が憑くと言ったのはモノの事だろうな。」 「やおよろず…」  おじいちゃんは僕にはまだ早いか、と笑って本を閉じた。  “お前にも分かる時が来る”  そう言い残したおじいちゃんはその二年後に息を引き取った。  あの書庫のロッキングチェアにいつものように本を膝に置いて、まるで眠っているかのような安らかな顔で亡くなっていたらしい。 凄くおじいちゃんらしい死に様だと思った。
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