運命とはかくも残酷なものなのだ

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悪夢、とは いつもある時点から始まるもので 最初は大概、幸せなのである。 「ッ──!!」 そして、俺の悪夢は いつだって、いつだって、 [運命とはかくも残酷なものなのだ] 「っ…、…ッ!は…、」 全身から汗が吹き出る。 喉が干上がって、息が吸えない。 ひゅうっ、と閉じた気管の隙間を縫って酸素が入り込んできた。 「……ぃ、ッ、」 隣で眠る薫を起こさないように口を強く押さえ、気配を殺して寝室を出る。 酸素を求めるのを無理矢理抑え込んだ所為か、俺の身体自体が文句を言うように頭痛や全身の痛みを引き起こした。 「は…ぁ、…は…」 いつからだったか。 この悪夢を見るようになったのは。 ずっと前のような気もすれば、ほんの最近な気もする。 「……、」 真っ白な洗面台に自分の手を置くが、それは赤く染まって見えた。 「俺は…どこまで、人を傷付ければいいんだろうな…」 渇いた喉で出せる声は酷く掠れていて、痛みを伴った。 生憎そんなことを気にする余裕なんてものはない。 (夢だ。あれは夢なんだ。) 残酷な、ただの夢。 「そう言えたら…どれだけ楽だろう…な」 ぼろぼろと涙が出てくる。 ─まさか、 嗚咽を噛み殺して洗面台に縋りつく。 あの悪夢は、日毎リアルさを増していった。 (見捨てられるだけならばよかったのに…!) 何故、何故、そこで春日井が出てくるのか! (そして…何で俺は、) (あの人の差し伸べる手を取ってしまうのか…) 夢だって分かってる。 でも、あまりにもリアルなそれはその出来事を夢で終わらせてはくれないのだ。 夢の始まりはいつだって幸福なところから。 俺のそばには薫がいて、皆がいて… そして、それを俺はぶち壊す。 裏切るんだ、俺は。 そして薫は俺を指差して言う。 ─オ前、ハ… 「雪羽…?どうかしたのか?」 「!?」 起こしまったのだろう。 薫が心配そうにこちらを見ている。 (ずっと嫌な夢を見る、なんて…言えるかよ) 薫のことだ、心配するに違いない。 (そんなの…嫌だ、) 「・・・雪羽?」 「いや、なんでも・・・何でもないんだ」 そうして俺は、笑った。 ──オ前ハ、裏切リ者ダ 薫のその言葉が、頭から離れない… .
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