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彼は呆然と佇んでいた。
目の前にうつ伏せで横たわる、男の死体を眺めながら。
彼は目の前の死体に心当たりがある。
それは当然だろう。
目の前のそれは、生まれてからつい先程まで“自分”として生きてきたのだから。
自分と同じ容姿をした死体。
その背中に突き立てられた銀色に輝くナイフを見て男は思った。
あぁ、俺は死んだんだな……と。
不思議と彼が驚く事はなかった。
それよりも今ここにある自分自身の意思は何なのか、彼はその事の方が気になっていたのだろう。
ただ単にこの世界は自分が見ている悪い夢なのか、それとも自分が俗に言う“霊”と呼ばれる存在になったのか。
その答えを見出だせぬまま、彼は“自分”の傍らでいつまでも立ち尽くしていた。
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