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直視するのも憚られる現実ではあるが、これが生者と使者の壁であった。
だが……それでも二人とも生者であれば……。
谷口さんは、その考えに至った上で砂田さんにこう言っているのだ。
例え今は二人の間に壁が立ちはだかっていたとしても……またいつか、その壁を越えられる時を信じて……。
そして谷口さんがそんな気持ちで居る以上、砂田さんがそれに応えるのは至極当然の事だったのかもしれない。
彼は例え触れる事が叶わずとも、涙ながらに谷口さんを抱き締める。
そしてそれこそが、彼女の思いが砂田さんに伝わった瞬間でもあった。
「約束する……。俺……絶対に来世でも、美香を見付け出すから……」
その言葉を受け、谷口さんの瞳に浮かんでいた涙も頬から滑り落ちる。
それを見届けた峰無さんは、どこか満足気に口を開いた。
「どうやら……犯人については教える必要も無さそうだね。君達はただ、僕らに全てを任せていてくれればいい」
言うや否や峰無さんは踵を返し、部屋の外へと向かう。
そして砂田さんと谷口さんの視線をその背で受け止めつつ、力強く言い放つのだった。
「行こう。ワトスン君、レストレード君。復讐なんて血生臭い事は、僕らの役目だ。必ず犯人を、刑務所にぶち込んでやろうじゃないか」
峰無さんのその言葉に、私と熊崎さんの口元からは笑みが溢れる。
そして私達二人は、無言で峰無さんの後に続くのだった。
この直後、モリアーティからの刺客が訪れる事など、知る由も無く……。
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