人間讃歌

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人間讃歌おまけ。 後日談。 「記念日」 人間は欲多き生き物だ。 ――なんて馬鹿にしていたのはずっと過去のこと。 「はぁ」 だけど僕はそんな事を笑っていられなくなってしまった。 なぜなら僕も人間のように欲多き座敷わらしになってしまったからだ。 「どうした?真白」 「いえ、なんでもないです」 二人、手を繋ぐ帰り道。 すぐ側には大好きな薫さんがいるのに深いため息を吐いてしまう。 ――今日は薫さんの提案で海に行った。 ううん、今日だけじゃなく薫さんはいろんな場所に連れて行ってくれた。 「真白に色んな景色を見せたいから」 と、言って休みの度に出かけるようになった。 元々インドア派の薫さんが僕を想って連れ出してくれるのは嬉しい。 「……っ……」 だけどその度に申し訳ない気持ちになった。 なぜなら周りは家族連れや恋人同士で溢れているからだ。 山も海も遊園地も動物園も、そう、何もかも――。 僕の存在は他の人には見えてないから薫さん一人で来ているように見える。 もしかしたら恥ずかしい思いをしているのではないか。 それとも退屈だと思っているのではないか。 そう思う度に居た堪れなくなった。 人の多いところではさすがに話が出来ない。 写真を撮っても何も映らない。 僕が居たという形跡は何も無く存在を証明することは出来なかった。 途端に自分がいらない存在に思えて虚しくなる。 薫さんは優しいから、それでも気にしないでどこにでも連れて行ってくれた。 家で待つ僕を気遣って飲み会もなるべく早く帰って来てくれる。 でもそうすればする程、薫さんを不幸にしている気がして辛くなった。 覚悟はとうに出来ていたのに、実際同じ思いをすると気持ちが揺らいでしまう。 何が何でも側に居たいと思ったあの時の自分を後悔してしまいそうになる。 所詮僕と彼では生きる世界が違うのだ。 その僅かな違いが僕を追い詰めてしまう。 「も、もう大丈夫です」 「何が?」 「僕今まで薫さんには色んな所に連れて行ってもらいましたから。もう十分なんです」 我慢の限界から思い切ってそう切り出した。 沈む夕陽を民家の影に捉えながら道の真ん中で立ち止まる。 家はすぐそこで馴染みの屋根が見えていた。
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