序章

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 映えるような赤と、沈むような黒。  ──僕の目の前に広がっているのは、たったその二色だけだった。  平々凡々、普通、普遍、なんてあまり気軽に使ってはならない言葉ではあるが、この場合は使わざるを得ないくらい、少なくとも今までは僕は平凡という人生(レール)の上を歩んできた。  何の特徴もなく、何の目標を定めることもなく。誰の為にも気概を持たず、自分の為ですら大志を抱くこともない。  そんな僕ではあるがしかし、たった一つだけ、さながら純水のような純真さを持って、事実ではないが真実であると心の底から信じているものがある。  ──それは、『正義』だ。  勧善微悪。禅問答のようにくだらない垣根など微塵もなく、ただ正義がいて、悪がいる。性善説ではなく性悪説のように、正義であろうとする倫理の究極とでも言うべき、意志。僕にとって正義は全てであり、正義こそが唯一宿る信念だった。
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