幕開け

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 ねっとりと滴る水音と、ぬるっとした感触が頬を舐めた。  聞き慣れぬ荒らしい吐息を生々しく肌で感じ、少年は耐えきれないとばかりに目を覚ました。 「んぅ、もうやめろって……」  寝ぼける仕草を見せ、ぬるっとしたものを手で押しやろうとするも、それは絡みつかせるかのように少年の手のひらを弄ぶ。  くすぐったい感覚に少年の口元には小さな笑みがこぼれ、それと同時にとても澄んだ綺麗な瞳に目の前の光景をはっきりと映し出す。 「…………」  しだいにわなわなと見開かれていく少年の瞳に映ったものは、大きな四つの瞳。  紅い瞳と碧い瞳は無邪気な様子で少年の顔を覗き込み、再び少年の頬を舐め擦った。 「は……、え……?」  唐突な出来事に少年はまん丸に開いた瞳が元に戻らない。  頬を舐め擦る、緋色の龍と瑠璃色の龍、二匹の龍の存在に少年はその場に凍りつき、声を出すことさえままならない。  全く状況が呑み込めず、混乱した色を見せるこの少年の名は、 “九砂 龍也(くずな りゅうや)”  戦々恐々と震えるその顔はどこか知的で、中性的な雰囲気を醸し出しながらも、混乱と畏怖の念に歪ませずにはいられなかった。  一方、独特な舌触りで龍也の両頬を舐め続ける龍たちの瞳には、敵意そのものは感じられない。  好奇心旺盛、無邪気一つと言わんばかりの様子だ。  そんな状況の中、一つの声がどこからともなく聞こえてきた。    
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