260人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
「やめて……お願い……」
涙と鼻水が混ざり合った顔で女が懇願した。
女は腰が抜けて壁に寄り掛かるように地べたに座り込んでいた。その表情はすっかり怯えきっている。
女の目の前には一人の男。
その右手は、鈍く光る金属バットを握りしめていた。
男はぜいぜいと肩で息をしながら、憎悪の炎で真っ赤に染まった目で女を睨んでいた。
その表情から男の精神状態が異常であることは容易に読み取れた。
「よこせ……」
男は唸る様な声で呟くと、金属バットを両手に持ち変え、ゆっくりと振り上げた。
女は恐怖で体が硬直していて動けない。
「それをよこせぇぇぇーっ!!」
男は奇声をあげて金属バットを全力で振り下ろした。
ゴキン───
鈍い音が冬の寒空に響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!