序章

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「やめて……お願い……」 涙と鼻水が混ざり合った顔で女が懇願した。 女は腰が抜けて壁に寄り掛かるように地べたに座り込んでいた。その表情はすっかり怯えきっている。 女の目の前には一人の男。 その右手は、鈍く光る金属バットを握りしめていた。 男はぜいぜいと肩で息をしながら、憎悪の炎で真っ赤に染まった目で女を睨んでいた。 その表情から男の精神状態が異常であることは容易に読み取れた。 「よこせ……」 男は唸る様な声で呟くと、金属バットを両手に持ち変え、ゆっくりと振り上げた。 女は恐怖で体が硬直していて動けない。 「それをよこせぇぇぇーっ!!」 男は奇声をあげて金属バットを全力で振り下ろした。 ゴキン─── 鈍い音が冬の寒空に響き渡った。
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