微睡の朝

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 私は春山くんのすべすべした頬を人差し指でそっと撫でた。  ――夏休み、終わらなければいいのにな……。  春山くんと過ごす、このなんでもない時間が幸せすぎて、――少しだけ怖い。  無意識に小さなため息をついた時、春山くんの右手がぴくりと動いた。  ゆっくりと開いた瞼の向こうに現れた、コハク色の瞳。 「――はよ」 「……おはよう……。ゴメン、起こしちゃった?」  ううん、とかすれた声で答え、ふわりと笑顔を浮かべる。  左手をきゅっと握られたとたん、私の中にあった不安が溶けるように消えて行くのを感じた。 「……ね、春山くん。これ、すごくない?」 「なに?」 「手。昨日の夜、繋いで眠ったでしょ。 朝まで離れなかったなんて、ちょっと感動しちゃった」  はしゃいで言うと、春山くんはつないだ二人の手に目をやって、 「ほんとだ。……すごい」 「ね」  嬉しくなった私は、恋人繋ぎした手を持ち上げ、天井に掲げるようにして見上げた。 「このままくっついて離れなくなっちゃったらどうなるかな」 「俺は構わないけど」  え、と顔を見ると、春山くんはちょっと意地悪な笑いを浮かべ、 「そしたら今度こそ、お風呂一緒に入ってもらえるし」 「……もう。すぐそういうこと言うんだから……」  私が口を尖らせると、春山くんが素早く顔を起こし、尖った唇にチュッとキスを落とした。 「……笹森、今日行きたいとこ、ある?」 「んと……」  私は少し考えて、 「図書館、行きたい」 「え」  目の前で春山くんが目を見開く。 「俺も、そう言おうと思ってた」 「ほんと?」 「うん」  顔が近づき、もう一度キスされるかと思ったけれど、彼の唇は優しく頬に触れた。
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