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目覚まし時計の音が聞こえる。
私は目を閉じたまま、ん……と呻くような声を漏らした。
頭の上で鳴る電子音を止めたいけれど、未だ眠り込んでいる体がいう事をきいてくれない。
左手を動かそうとしてその感触に気付き、ぱち、と目を開ける。
――あ。
目の前に、春山くんの寝顔。
びっしりと生えた長いまつ毛が目元にギザギザと影を落としている。
私の左手は、春山くんの右手にすっぽり包まれていた。
――すごい。
夜、眠る時につないだ手を、朝まで離さずにいたなんて……ちょっと感動かも。
春山くんが起きたら一番に報告しなきゃ。
私は空いている方の右手を頭上に伸ばし、目覚まし時計を止めた。
スヌーズ機能で再び鳴りださないよう、元のスイッチも切っておく。
そしてもう一度タオルケットの中に潜り、春山くんの手を握り直した。
――寝顔、かわいい……。
昨日、私が眠ったら帰るって言ってたけど、……きっと疲れて寝ちゃったんだ。
居てくれてよかった……。
もっと近くで見たくて顔を寄せると、二人の前髪同士が触れて額をくすぐった。
遠くから、蝉の鳴き声が聞こえる。
開けっ放しの窓のすぐ下を、ふざけ合う子供たちの声が通り過ぎて行く。
これは、夏休みの音だ。
今しか聞くことのできない、どこか懐かしさを感じさせる刹那の音。
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