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時計の秒針が、盤上を二度ほど回った頃、
「……分かってるとは思うが、ここで聞いたことは他言無用な」
携帯灰皿にタバコを押しつけた右京は、ようやく口を開く。
「二条院家──つーか理事長は、生き残ってたタナトスが、ゾリス・ゲノ・ハディスの体を乗っ取ったと認定した」
その声は、気だるそうでありながら固い。
いつもの調子を保とうと努めていることが、手に取るように分かった。
「ヤツの目的は、本人いわく『人間と魔族を滅ぼす』ことらしい。音沙汰がないのは、その準備をしてるからだろ。
宗家と一部の分家で捜査を始めたが、尻尾を掴める可能性は低いとさ」
二本目のタバコに火をつけ、深く息を吐き出してから、再開。
「それから……襲撃を受けたハディス邸の使用人だが、怪我人は何人か居たものの、死者はなし。
タナトスは顔を隠してたみたいでな。あの人らは、犯人が自分たちの当主──の体使ってるヤツ、ってことには気づいてねぇ。
今は眠ってるハディスも、夕方には目ぇ覚ますだろうから、ひとまず問題は」
「ちょっといいスか?」
尋ねながらも有無を言わせない一言が、長いセリフに割り込む。
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