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「廃工場もろとも吹っ飛ばされたようで、遺体は見つからなかったが……タナトス本人が認めたよ」
その自白を聞いたのは、間違いなく目の前の担任教師だろう。
当時の彼の心情を思おうとして、しかし木宮はやめた。これ以上、血の気が引くのは避けたい。
「世間的には、神崎はハディス兄妹をさらった犯人と接触し、妹の身代わりに誘拐された、ってことになってる。
タナトスのことが世に知れたら、恐慌どころの騒ぎじゃなくなるからな」
真剣さを表す、低く重い声。
だが、今までとは比較にならないほど声調が硬い。真剣なだけではなく、感情を押し殺すような気色が、ありありと伝わってきた。
「そんなわけだから、あまり警察や自警団も動かせねぇ。ほとんど二条院だけで、秘密裏に調べて対策しなきゃならねぇのが現状だ」
締めくくるように言い、右京は唇を結ぶ。
状況説明が済んだ今、彼には部屋に残る理由はない。それでも座ったままなのは、
(まだ、何か……?)
しかし、野獣の権化のように険しい目をした男は、周囲の無言に同調するかのごとく、口を閉ざしたままだ。
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