第七章 戦場での選択肢

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 ギリギリまで引き付けなければ、夜叉の群れに当たる前に螺旋魔法の威力が落ちかねない。 「殱剣様……?」 「まだだ……」  残りは約百メートル。  もう射ってもいい頃合いだが、 「まだ引き付けろ」  アベルは発射を容認しない。  この先制攻撃で夜叉の数を少しでも多く減らさないといけないから。ギリギリのギリギリまで待つ。 「もうよろしいのでは?」 「吼翅、十秒後に発射しろ」 「え……ーー?」  シェリーが何かを訊く前に、アベルは丘の上から跳び出した。片手剣を手に、夜叉の群れへと単騎で突入を試みる。  ーーこれで、夜叉たちが俺に少しでも集中すれば……。  螺旋魔法による被害の拡大は必ず大きくなる。ここで派手に暴れて、陽動として成功するためには。  炎系魔法変化、烈斬。  剣に魔力を乗せる。瞬時に魔力を主原料とする炎が産み出され、剣身全体に巻き付いていく。  そして、斜めに一閃。  空中に迸る炎の斬撃が空夜叉を数匹切り裂き、その余波を浴びて地夜叉の何匹かが燃え尽きていく。  すると、全ての夜叉の目がアベルへ向いた。特に虚空夜叉の視線が鋭い。同族を殺された怒りからか、その視線には殺気が込められいて。  三匹が一斉にアベルへと突貫してくる。  その重圧だけで、並みの魔法武芸者なら一歩も動けないだろう。だが、アベルは並みの魔法武芸者ではない。  ーー二、一、……今だ! 「射てェええッッ!!」  喉を破裂させたような絶叫の下、アベルとシェリーの号令が重なった。 
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