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首を動かし、体の向きを変え、360度ぐるりとする。
『そう言ってもらえると…嬉しいです。』
また、その人の声。
…どこ…?
かろうじて2車線を確保した道路の向こう側…。位置的には、この輸入雑貨店から道路を挟んだ向かいにある飲食店の前。
そこに。
その人はいた。
ダークな色のTシャツ。腰で結んだ長くて白いエプロン。
長身で短髪の男性。
離れていても、暗くても、その人がそこにいることがはっきり分かるほどの大きな体。
この店のコックさん?シェフ?
話している相手は…お得意様かお偉い様だろうか。
そして、その人の体に見え隠れしている女性が1人。
店から漏れる明かりを頼りに目を凝らすと、彼女は若くはない、ちょうど私の母親くらいの年齢だということが分かる。
彼女…ではない?
奥さん…ではない?
あ…。
私…何を気にしてるんだろう。
彼の傍らに寄り添う女性が何者なのかを、必死で判断していた自分に戸惑った。
『はい!頑張ります!今後とも、よろしくお願いします。』
彼は、頭を下げる。これでもかってくらいに。
お偉い様…なのかも。
コックさんなのに、私たちのような一般企業に勤める社会人のするような姿を見れて、どこか親近感が湧いてしまう。
私の目は、彼の動きを夢中で追っていた。
お偉い様たちの後ろ姿が小さくなる。
彼は、となりの女性に微笑んでから店の中へ戻ろうと体の向きを変えた。
『あ…。』
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