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ホテルの中、和食店座敷
園田家と新条家が向き合い、漆塗りの卓を囲み食事会が開かれた
大規模になった今回の改装工事を、酒を酌み交わしながら楽し気に話すお互いの父
その二人を気遣うように酌をする母
要所要所頷き酌を受け取る蓮
そして…夏希は…場の空気を壊さぬよう微笑みだけは崩さず箸を口に運んだ
何度聞いてもわからない仕事の話
どうして居なきゃいけないのかもイマイチわからない
きっとただ…蓮の相手としてそこに居させられているような感じだった
「つまらないか?」
「えっ…?」
先輩が私にだけ聞こえるくらいの声で囁いた
「いえ…そんなこと」
「そうか…もしつまらないといわれたら…どうしようかと思った…」
「どうしようかと思った?」
(どういう意味だろう?)
「今回もアンタを同席して欲しいと言ったのはオレだったから…」
少し頬を染め自嘲気味に語った蓮
彼の希望で呼ばれたことに少し戸惑ったものの
「先輩と食事するのにつまらないとかないですよ?
久し振りに出来て嬉しいくらいです♪」
「本当に?」
窺うように夏希を見つめ、彼女の瞳が嘘じゃないとわかったのか
蓮は夏希に向け安心したように微笑んだ
「良かった…」
先輩が私の返事を聞いて…嬉しそうに微笑んだ
胸がギュッと…締め付けられた感じがした
今の反応を見れば、もし私がつまらないと言っていたら…真逆のように落ち込む顔を見せられたのだろう
私は…もしその顔を見たら、自分の酷さに嫌悪していただろう
言わなくて良かった。
実際つまらなくはない…
久しぶりに会って嬉しいと思ったくらいだし。
でも…心の隅で、先輩が向ける私への微笑みが…まだ私を好きだと言われているようで辛かった
応えられないその想いを真っ直ぐに見せられた気がしたから…。
伏せ目がちにテーブルを見つめ、微笑みを作る夏希を見つめた
嬉しいと言ってくれた彼女
なのに、少し翳りある微笑みを見せる
きっと…オレとこうして会って居ることに少なからず戸惑っているのだろう
ここに居ないアイツに気を遣い…
夏希を真っ直ぐ見つめる蓮を…蓮の父は見ていた
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