第一章 【野良猫】

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「……泣くなよ…」 そんな私を強く抱き締めてくれた。 「今朝…ミケは“行ってらっしゃい”って言ってくれただろ? 笑顔で。 凄く久しぶりだった。 誰かに見送られることも、誰かが家で待ってるから早く帰ろうと思うことも…」 「……」 「それだけで十分だ。 ミケがここに居て笑って待っていてくれるだけで、お前がここにいる意味がある。 わかるか?」 ……正直わからない。 それだけの理由でどこの誰かもわからない人間を家におくなんて…。 でも1つだけわかるのは、この人も寂しいんだ…。 孤独なんだ…。 「仕事…大変なの?」 「何でだ?」 「疲れてるのかなって…」 「俺の仕事のことはミケは考えなくて良い」 抱き締める腕が強くなる。 「ねぇ…本当にさっき抱こうとした?」 抱き締められる温もりが心地良い…嫌じゃない。 「さぁな…」 きっと私が泣かなくても、この人は私を抱かなかった気がする。 「私ね…ファーストキスだったんだよ…」 男の腕に顔を埋めた。
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