無線傍受.

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無線傍受.

父が使っていた無線は、幼い私の遊び道具だった。当初は仕事がら家を空ける事の多い父の声を聞けるのが楽しかったのだが、そのうちに救急車や消防車のサイレンが聞こえると好奇心からその無線を傍受するようになった。ある日曜の早朝に救急車の音を聞き無線をつけると「小学生、マンションのベランダから転落」  月曜に学校へ行くと朝礼で同級生のS子ちゃんの死を知らされ黙祷を捧げた。実の父親に折檻され殺されたのだった。私はあの無線がそうなのだと確信した。その夜、救急車のサイレンを聞き無線をつけると「たすけてー、いやだよー、落ちる」子供の悲鳴が聞こえた。慌てて無線を切ったが、紛れも無くS子ちゃんの声だった。  それから無線は聞いていない。が、30歳になった今でもタクシーに乗り無線が耳に入るとあの時のS子ちゃんの声が聞こえる「たすけてーいやだよー落ちる!」
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