秘蜜

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運命なんかいらない 命なんかいらない あなたが笑ってくれれば それだけで構わないのに ~秘蜜~ ぼんやりと目を開けると目の前には人がたくさんいた。 高い場所にいるのか自分が人を見下ろすような形になっている。 罵声を浴び、石を投げられている自分。 ああ、思い出した。小さく呟く。 彼女は処刑台の上にいるのだ。 「ああ…またこの夢か……」 すぐさま理解してしまう自分の夢。 今まで幾度となく見てきたためか未来を理解していた。 それは、自分の過去。 今の世界に来る前に起こった現実。 思い出したくはないのだが毎日夢となって出てきていた。 最初はある人物との出会い。 炎を操る能力があるせいで捨てられていたハヤトを青年が拾った。 その人物のお陰で立派な遊騎士にもなれた。 だが、結局能力は危険だと認識され、今こうして処分されようとしている。 「何か、言い残すことはないか?」 処刑執行人が話しかけてくる。復讐を防止しているらしく その人物の顔は布切れ一枚で覆われており見ることができない。 目の部分だけが開いているためかとても気持ち悪い。 言い残すことなどたくさんある。 人間への恨みつらみ、依頼人への文句。そしてなにより… 拾ってくれた人物への感謝と、抱いてはいけない感情。 伝えたいのに伝えられないもどかしさ。 全てが彼女の中を駆け巡った。 だが、いつもそうだ。言うことなど叶わない。 「ありません。」 会話も聞きなれたもの。変わり映えもなく首を横に振った。 そして再び人間を見下ろすようにする。 だが、今回は一部だけ違っていた。 視界を下げた場所には見慣れた人物が立っていたのだ。 申し訳なさそうな表情をしながらこちらを見ている。 「ハク…さま…」 純白とも言っていいほどの白い髪。菫色の瞳。人より幾分か白い肌。 自分を拾ってくれた恩人であり想い人。 目が離せなくなっていることがわかったらしく 青年は口を大きく、ゆっくり開いた。 《助けられなくて、ごめんね》 ああ…これは願望なんだ。 自分が望んでいること。 それでも、わかっていたとしても、 涙が溢れて止まらなくなった。 12時の鐘が鳴り響く。コツコツと執行人の足音が響く。 まだ、死にたくない……
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