響く煉瓦

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響く煉瓦

 私が、ある警備会社に勤めていた時分のことである。 「勤めていた」とは言っても、当時の私は正規の社員ではなく、某(ナニガシ)とかいう会社の、とある施設の門番みたようなことをするのが私の仕事で、施設の入り口に突っ立って、ただそこを通る人の身分証を拝見するだけという、非正規社員の身分に相応しい、すこぶる振るわないものだった。  雀の涙の安月給で仕事がどうもクダラナイ。その癖、昼間と夜中をヒックリ返した生活をするために、ジワジワと健康を害するというので、割合、入れ替わりの多い職場だったといえる。  サテ。そのクダラナイ職場の同僚に、スゲノ先輩という人がいた。ヒョロリとした長身で、物腰が柔らかく、灰色がかった肌に、黄色く濁った目をした男だった(それは私も含め、当時の同僚に共通した特徴ではあったが)。大の仲良しという程ではないが、ちょっとした世間話をする程度の間柄ではあったように思う。
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