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「向坂、ちょっといいか?」
夕刊の降版時間も過ぎ、しばらく息抜き出来る時間帯。
コーヒーの紙コップを手に屋上のベンチへ座った千聖に、大学時代からの親友・溝口が声を掛けた。
「ああ、いいけど?」
答えながら少し横へ動いて、座り直す。
溝口は千聖の隣へ腰を下ろすと、周囲を気にしてから小声で話しはじめた。
「じつはな、面白い話しを小耳に挟んだんだよ」
コーヒーを口に運びながら、千聖がちらりと溝口を見る。
「どんな?」
問い掛けると、溝口はその言葉を待っていたとばかりに、ニッと口角を上げた。
「このあいだ、岩間岬の啼鴎亭で転落事故があったの覚えてるだろ?」
敢えて「いるか?」では無く、「いるだろ?」と問い掛けたのは、千聖の記憶力が優れている事を知っているからだ。
期待に反せず千聖が「ああ、荷物運搬用のゴンドラが落ちて、一緒に乗っていた女性が亡くなったってやつだ」と答える。
溝口は、小さく頷いて話しを続けた。
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