陣の章

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無理に作ったその笑顔は引きつり、震えている。 光の想いは真実だった。最後まで大和の心に住まおうと、出会った時と同じ微笑みで見送ったのだ。 大和の車が地下から屋外へと上って行く。 小さな謎と大きな謎を残して……。 有り余る財力で建設された巨大風水装置、奇少物件100LDK。 それは二十一代名当主が夢みた永遠の命を成し遂げる為の巨大蘇生装置。 本人亡き後、妻がそれを引き継ぎ、儀式を敢行した。 しかし儀式は失敗し、殺された当主は蘇らなかった。 表向きは……。 もうじき長門の門を出ようかという所で、時々起きた不可思議な現象が、不意に大和の後ろ髪を引く。 よくよく考えていれば、カジノで吹いた金の風は誰がやったのか?自動制御だったのかあれは。 蓄音機は誰が鳴らした。 そして妙にチラ付く模様がある。 “銀河の思考回路” ベネツィアの夜景で見た、あの銀河の模様が、大和の脳裏に煌き揺れる。 そして、それらとは別に光の最後の微笑みも。 「無理なんだよ。光。お前と俺は……」 小さな疑問とぼやきは、後部座席の樹だけが聞いていた。 こうして、大和は長門の屋敷を後にした──。  
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