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光を突き飛ばした昴は、彼女のタッチパネルを手に取り、屋敷内の模様を確認する。
「……なるほどねえ。当然の様に失敗していたかと思ってたけど……」
弾みでベットの角に頭をぶつけた光。
「ねえ……さま」
「……儀式は成功していたのね」
朦朧とする意識の中、微笑む姉の顔を最後に光の瞳が閉じていく──。
──気を失ってどのぐらいの時が経ったのだろうか。
目覚めたそこは、自身の部屋では無かった。
「ここは……」
一目で分かる。薔薇に囲まれた緑園。
そこは文の庭園、複雑怪奇な薔薇の魔宮。
痛む頭をさすり、光は立ち上がろうとする。が、うまく立てない。
辛うじて立ち上がるが、何故自分の部屋からここに至ったかも分からない。思考すら複雑と化す。
「……お姉さま!」
昴は必ず鈴の下に向かっている。
姉と鈴を引き離そうとした時、彼女は暴れ、かなりの手間があった。
姉を探すには、この迷宮から脱出しなければ。
一族の者なら、この迷宮の脱出法を知っている。
地面に生える緑は冷たく、景色の雪が辺りの気温を冷やしていると分かる。
今にも涙を流してしまいそうな雨雲の下、光は周りに何かを探す。
しかし、答えは無い。
脱出は不可能。
しばらく息を吸い、ただ吐いた後。
振り返れば自身が住み慣れた屋敷が見えるはず。
一瞬の安心を求め、光は振り返り雪の八角を見ようとした。
「いやっ…そんな」
しかし、光が見た物は見慣れたはずのあの八角ではなかった。
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