大和の章

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背景は豪華な装飾と、紅い絨毯(じゅうたん)が敷かれた広い階段。 この屋敷は改装して間もないと聞いている。 屋敷の正面玄関にしては、写真自体の状態が少し古い。 階段の一段ごとに立つ者と、豪華なイスに座る者。 どうやら一組の家族らしき人物たちが写っている。 老人と老婆による2名の老夫婦に、壮年の夫婦らしき2人。 妻にあたるであろう女性は赤子を抱き、女性の肩に手を置く中学生くらいの少年。 そして写真からも可憐さが伝わる高校生ほどの美しい少女が1人、一団の横に立っている。 大和は伊達メガネを外し、メイドの細い指に乗った写真を注意深く睨む。 特筆すべきところと言ったら、老婆の膝元に毛がフサフサした猫がいることぐらいだろう。 「ブリティッシュショートヘアか」 大和はそうつぶやき、心では金持ちが飼いそうな猫の典型だ、と舌打ちをする。 営業先のクライアントと話を合わせるためにつき続けた嘘で、彼は20種類以上の犬猫を飼い分けていることになっていた。  
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