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俺の懇願が通じたのか、それとも殺す方法を考えているのか、あやせは再び無言になった。
俺はひたすら頭を下げ続け、あやせの言葉を待った。
……しかし、いくら待っても何もなかった。
「あ、あやせさん?」
また少しだけ、下げていた頭を元に戻しあやせの表情を確認すると。
「……くくくっ」
笑いをこらえていた。それはもう必死に。
「あやせ……さん?」
もう一度声をかけると、我慢の限界を超えたのかあやせから笑い声が聞こえてきた。
「あははっ! もう無理ですよお兄さん!」
大声で笑うあやせについていけない俺は、とりあえず疑問に思ったことを聞いてみた。
「あの、あやせ。楽しそうに笑ってるところ悪いんだが」
「あははっ! はい、なんですか?」
「お前は、なにがそんなにおかしいんだ?」
「だって、くくっ……。お兄さんったら、必死に謝るから」
「そりゃあんな無表情なら謝るでしょ!」
めちゃくちゃ怖かったしな。
「無表情の原因がわからないのに、謝るんですか?」
「ああ」
めちゃくちゃ怖かったからな!
「もうっ、お兄さんったら」
「はっ、ははっ」
無表情からは考えられないほどの無邪気な笑顔を見て、俺は思わず苦笑いしてしまった。
ったく、嬉しそうにしてると思ったら無表情になって、無表情になったと思ったら笑いやがるし、なに考えてるのかさっぱりわかんねぇ!
それによ、あやせの笑顔を見てたらどうでもよくなってきちまった。
本当に可愛いよなちくしょう。少しくらいうちの妹にも分けろってんだ。
決して口では言えないあやせへの文句を思いつつ、俺はしばらくあやせの笑顔に見惚れていた。
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