隠れ鬼

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少し開いた扉から、お米のいい匂いがしてくる。 私はこの匂いが大好きだ。 今は外食で済ます事が殆どだけど、昔は自分でお米を研いで毎日食べてたっけ。 レトルトでも、この好きな匂いは変わらない。 「じゃ~ん、お待たせ。梅干じゃなくって、卵を入れてきたよ。これだけ休むくらいだもん、栄養をきちんと摂らないとね」 「ん……ありがと」 私が体を浮かせようとすると、なみは私の右腕を握って首を振る。 「いいよ、起き上がらなくて。はい、あ~んして」 「子供じゃないんだから、そのくらい食べられるわよ。馬鹿にしてんの?」 「いいから! 病人なんだから。はい、あ~ん」 何なのよ……。 「あ、あ~ん……」 まるで、ままごとをしているみたいだ。 正直言うと体に負担がかかるから、かなり助かるんだけど……。 口の中に卵とお米の味が広がる。 ……どちらかと言うとやっぱりレトルトの味だ。
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