―其ノ弐―

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 雨風が凌げそうもない内部はだだっ広く、潮風に曝され続けすっかり錆びついた大型機械が、工場の隅の方で植物のツタに絡まれている。腐り果て雑草に覆われ地面の一部と化そうとしていた看板からは、かろうじで『伊藤冷凍』という文字を読み取ることができた。どうやら、かつては海産物を冷凍する工場であったようだ。  そして今は、少年ギャング“鬼神”のアジト。 「テメェ、これは何の真似だァ!」  不良を象徴するような格好の男に、怒号が浴びせられる。声を発したのは、百九十センチ近くある長身に鎧でも纏っているかのような筋肉、それを黒いライダースジャケットで包んでいる金髪オールバックの男。ジャケットの右肩辺りには、鬼神のマークが刻まれている。  この体格の良い男の名は、加賀屋剛(カガヤゴウ)。少年ギャング“鬼神”のリーダーである。  他のメンバーに取り囲まれ責め立てられている男は、床に膝を付き自分が脱いだスカジャンの背を信じられないとでも言いたげな顔で見下ろしていた。視線の先にあるのは、スカジャンの背一杯に描かれた鬼神のマーク――を塗り潰すように刻まれた、シックルズのマーク。 「よくそんなもん着て会合に来れたもんだなァ。殺されてェのかァ?」 「そっ、そんな! 俺が着た時にはこんなんじゃなかった!」 「じゃあ何だ? テメェはシックルズの連中に背中に落書きされてるのに気が付きませんでしたーってのかァ?」 「何かの間違いだ! 信じてくれ加賀屋さん!」 「裏切り者に情けはかけねェ。テメェら、やれ」  加賀屋の命令で仲間達が動き出した。抵抗する裏切り者を廃工場の隅まで引きずっていき、集団で暴行を加える。呻き声を聞きながらその様子を眺めていた加賀屋は、ふと妙な感覚に襲われ身近にいたメンバーの一人に問いかけた。 「オイ、今日は全員集まってるよなァ?」 「そのはずですが」  返答に軽く頭を捻り、加賀屋は眉を潜める。それなりの年月を共に過ごしてきたチームなのだから、いない者がいればすぐにわかる。こうして眺めていない者に心当たりがないのだから、鬼神は今いる二十人弱で全員ということになる。――にも関わらず、加賀屋にはメンバーが少し足りないように思えた。  程なくして、裏切り者は無残な姿へと成り果てた。加賀屋は廃工場に常備している武器から鉄パイプを手に取り、それを引きずりながら裏切り者へと向かっていく。
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