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「あー、門兵も楽じゃねぇよな」
見渡す限りの平原。
前の門兵と交代して二時間程経つが、変わったことなど何もない。
「そう愚痴るなファル、平和なのは良いことだ」
「や、そりゃそうだが」
独り言のつもりで言ったのだが、隣で同じように前を向いて立っていたキースが呆れたように言った。
「立っているだけで給金が出るんだ、良いことじゃないか」
「お前、良い性格してるぜ」
面倒が嫌いなキースは、実力と知識を兼ね備えていながら、門兵という「ステルド」の中でも下っ端がやる役職に就いている。
「お前だったらステッドマン隊でも良い役職に就けるのに」
「そんなもんになんなくても生活にゃ困らんしな」
はぁ…勿体無い。
心底勿体無い。
溜め息を吐き出しながら、首を横に振る。
「お?何か聞こえるな」
キースが何かに気付いた様だ。
「音?」
「あぁ、どうやら蹄の音みたいだが…」
俺には聞こえないが、キースが言っているのだから間違いは無いのだろう。
「…森の方からみたいだが?」
ワンダーホォレストから?
あんな樹海から馬?
怪訝に思いながらワンダーホォレストの方向を見てみると、整備もされていない草原を二つの点が疾走していた。
「一つは馬、もう一つは…狼か」
俺には黒い点にしか見えないが、キースにはあれが何か分かるらしい。
「魔物か?真っ直ぐこっちに向かってるな」
持っている槍を握り絞める。
「馬の方には人間が二人乗ってるみたいだが…まぁ、警戒だけしとくかな」
キースの顔が少し引き締まり、腰の剣に手を置いた。
物凄いスピードで近付くそれは、成る程確かに人間が乗っている。
馬と狼が門に続く街道に出ると、俺は槍を突きだし声を荒げた。
「そこで一度止まって貰おうか!!」
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