INTO THE WORLD

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 ねぇ、お願いがあるの――と、彼女は笑った。   ◇  ◇  ◇  ◇    太陽が眩しいから、という理由で殺人を犯した人間がいるけれど、僕は空が綺麗だからという理由で海に出かけることにした。  ベッドの上で、空しさの徒然からぼんやりとしていた時、ふと外を見たらそこに空があった。雲一つないと言ってしまえば大げさで、むしろ薄くたなびく雲の白さが、バックグラウンドの空の青さと不思議に調和していて、窓枠の中に限定されたそれはあたかも一つの絵画のようだった。絵画が常に美しいとは限らないけれど、空、と題すべきこの神の作品は理屈抜きに美しかった。見ている内に居ても立ってもいられなくなった僕は、気がつくと、駅に向かっていた。  由里ヶ浜駅行き、360円。  駅に着いてすぐに、馴染みの薄い切符を買うと、二番線のプラットホームから列車に乗り込んで、入り口近くの自由席に座る。平日の昼間であることも手伝ってか、八十がらみの老婆が一人、眠そうに座っているだけで、他に乗客の姿は見当たらなかった。
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