何と言う事も無い平凡な特訓

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そこは、ガスト国王城の一室……では無かった。 一面の、白い空間。 遠近感のない空間で、確かにそこに母さんが、父さんが、居たのだ。 でも俺は目を瞑る。 コレは俺のトラウマだから。 きっと母さんも、父さんも、また俺の前で死んでしまうはずだから。 そんな俺のほおが、そっと撫でられた。 優しい、母さんの手で。 優しい、父さんの手で。 目を開けば、俺は抱きしめられていた。 二人の、温もりがある。 耳元で、何かを囁いてくれている。 俺は必死に、必死にそれを聞き取ろうと……。 でも、溶けるように、解けるように2人の感覚は無くなっていく。 手を伸ばした、目を見開いた。 脚がある限りに走った。 それでも、それでもなお有る隔たり。 なら、なら伝えたい、伝え切れない思いを、喉が擦り切れるまで叫ぼうとした。 でも、声が出ない。 2人は最後にフッと笑った。 あぁ、そうか。 分かったよ。 言葉は、要らなかった。 それだけで、俺は満足できたのだ。 風に紛れるように母さんと父さんが消える。 俺は、心にかつてないほどの充実感を持っていた。 そして、理解した。 俺は、この為にこの試練を受けたのだと。 その考えに到達した瞬間……俺の意識はどこかへ引っ張られるように掻き消えた。
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