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第二十四章 忍び寄る怪異
「おかえりなさい」
玄関の扉を開けると、いつも通り台所から顔を出すばあちゃん。
そして、見覚えにも記憶にも全くない背の高い後ろ姿の人影が、もう一つ。
シュテンさんと身長は変わらないくらいだろうか。
180センチは超えるであろう長身に、肩まで伸びたぼさぼさの明るい茶髪。
秋も終りに近づいているのに、海老茶色の作務衣(さむえ)を着ていた。
五分丈のすそから伸びる手足は長く、しなやかな筋肉におおわれている。
「……ただいま。ばあちゃん」
「お疲れ様だったね、二人とも。お客さんが来てるよ」
その人、誰?
そう聞こうとした瞬間、人影はくるりと振り向いた。
「おっ。これが八千代の孫娘か」
「!?」
もろに目が合う。
まるで肉食獣のように鋭い目は、鮮やかな琥珀色だ。
私を真正面から見ると、顔をくしゃりとゆがめて笑った。
(ばあちゃんを呼び捨て……?)
目の前の男は18歳から、せいぜい二十代にしか見えない。
しかし、ばあちゃんとの距離感はまるで友達のように遠慮がない。
「本当に静枝そっくりなのな。ええと、篝だっけ?」
「そうそう」
「あ、はい。こんにちわ」
精悍だけど、少年のようなあどけなさが残る顔立ちは、私の隣の仏頂面の人よりはるかに親しみやすい印象を受ける。
頭を下げると、低いが快活で、気さくな声が降ってくる。
「そう、堅くなりなさんな。俺は金熊(かねくま)っていう。そこの朴念仁とはくされ縁だよ」
そう言うと、男は私とシュテンさんに歩み寄った。
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