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大地を包むように生えた並木はぎらぎら降り注ぐ日差しを和らげ、心地好い木陰をその下の中庭に与えている。
僕はここが、病棟の中で一番好きな場所だな。
「さて、やろうか」
僕の彼女が僕の車椅子を押し中庭の中央にある柔らかなオレンジ色で彩られたアスファルトの道にまで来た時、僕はそう言った。
そして僕はいそいそと松葉杖を準備して車椅子から降りる。その時、僕の彼女の顔をちらりと見てみると鳥のクチバシみたいに口を尖らせていた。
「もう、どうして真秀羅(まほら)はリハビリ室使わないの!」
「ここが好きだから」
僕はさらりと僕の彼女に言う。僕がここに来る理由はそれ以上もそれ以下もそれ以外なにもない。
すると、僕の彼女は更に口を尖らせた。まるでタコみたいになったな僕の彼女。
「手刷りもマットもないのに……! 雨の日までやろうとして……!!」
「仕方ないだろう。好きなんだから」
さらりと言う僕に、僕の彼女は“仕方なくない!”とまた焦げた黒い髪をかき回す。ぼさぼさになるよ、僕の彼女。
「いい! 真秀羅、あなたはいつ倒れてもおかしくないのよ!? やっぱり万一があっても直ぐに対処出来る病室の方が……!!」
僕の彼女はまた必死な形相で僕の説得にかかる。これで十回目かな? けれど、何を言っても僕の答えは変わらないよ、僕の彼女。
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