ウェイターは脇役……のはず

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まずはウェイターの控え室に戻ると、そこには案の定ともちゃんがいた。 「ともちゃーん」 「お?ああ、輝。お前具合は大丈夫なのか?」 ともちゃんはゆったりと椅子に座りコーヒーを飲んでいた。 その姿が大人な雰囲気を出していてとても似合っている。 「へーきへーき!すっかり酔いも醒めたし、もう大丈夫だよー」 「そうか、そりゃ良かった。にしても輝、何でお前首を押さえてんだ?」 やっぱりそこを突いてくるか。 俺はなるべく平静を保って答える。 「んー?いや、別に深い意味はないよー。ちょっと寝違えただけだしー」 「そうなのか?」 「うん。それよりともちゃん、俺の仕事はー?」 どうやら上手くはぐらかせた…ようだ。 「ああ、とりあえず今からフロアに行ってくれ。もうすぐパーティも終わるだろうからな」 「りょーかい!」 結構な時間、俺は不在状態だった。 今からでもいっぱい働いて挽回しよう。 俺は足早に部屋を出ようとした。が、そこでともちゃんに呼び止められる。 「輝」 「なーに?」 振り向くと、上から飴が降ってきた。 俺は慌ててそれを両手でキャッチする。 「疲れたときには甘いもん。それやるよ」 美形に笑顔の相乗効果で、極上の落とし顔になる。 ああ、何て素敵なんだろうその笑顔。 「ありがとー」 「どういたしまして。そんで輝、お前は一体具合が悪い間何をしていたんだ?」 「え?」 ともちゃんの声のトーンが少し下がり、俺は首を傾げる。 どういうことだ。 「お前の首に付いてるもん。まさか仕事中に楽しんだ…なんてことはねぇよな?」 …………あ。 両手で飴を受け取ったために、首筋が見えてしまった。 ということは、キスマークも丸見えというわけで。 「ち、違うよぉ!寝てる間に蚊に刺されただけで…」 「ふーん…?」 ともちゃんは納得していない様子で、俺から目を逸らさない。 ………すごくいたたまれない。 別に悪いことをしたわけではないのに、この背徳感はなんだ。 俺はじゃあね、と手を振ってそそくさと部屋をあとにした。 あれ以上あの空間にいると、なんだか懺悔でもしたくなりそうだ。 「輝にマーキング、ねぇ。ったく…相変わらずタラし込みやがって」 ともちゃんが軽くため息をついたのを、俺は知らない。
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