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「せっちゃん」
聞き覚えのある声がして、俺は目線を上げた。会議室のドアのところで芹葉を手招いている背の低い女に、俺の目は釘付けになる。
澄ちゃん。
唇の裏でそう呼んだ。でも状況がなかなか理解できなくて、俺は呆けた顔で彼女の横顔をじっと見つめた。
「ごめん、宣伝部の会議室から椅子持ってきてくれない? 」
芹葉はその声に飛び上がるように立ち、彼女の元へ駆け寄っていく。
「何脚?」
「えーっと、3脚」
「了解」
それだけ指示をすると、澄ちゃんはすぐに熊谷編集長に呼ばれ、廊下へと消えていく。俺は目の前を通り過ぎようとした芹葉の手首を、咄嗟に捕まえた。
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