No.2 とても素敵な退院祝い

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 俺は軽く頭を抱えながらダイニングへと戻ると、少し冷めてしまった自分の夕食を頂く。  ……うわぁ。ミカと同じ部屋で寝るなんて、今夜はなかなか寝付けそうな気がしない。  今夜の自分の心配をして、俺は小さく溜め息を吐いた。 「コッチでもないとすると……。年上好き?」  そんな俺とは対照的に、心底楽しそうに笑顔を向けてくるミカを見て、俺は更に肩を落とすのだった。    ★彡・:*:・☆彡・:*:・★彡  時間は夜中の2時くらいだろうか。街は静まりかえっており、時々聞こえてくる車の走る音と虫の鳴き声の他は、ほとんど音が聞こえてこない。  ベッドのある部屋ではすでにサトルが寝ているが、どうにも寝付けない私は今1人でベランダに出ていた。  昼間は部屋の外に出ると暑くて大変だが、この時間は少し冷たい風が身体へと吹きつけてくれるから心地好い。  今日は初めてサトルと喋った。特別な事は何も話していないと思う。それでも、何だかとても温かい感じがした。  あの感覚は何だろう?  頑張って当てはまる感覚を想像してみるが、対人関係や感情の経験値が圧倒的に少ない私には、答えを導き出すことが出来なかった。  喋れたのも嬉しかったけど、それ以上に、名前がもらえたのが嬉しかったなぁ。  サトルから貰った私の名前。このミカという名前を呼んでもらうだけで、神でない『私』を手に入れたような気がする。  何をどうやっても、私は神だけど、それでも、サトルの前でなら『神』じゃなくて『ミカ』に成れるように思えた。  サトルがくれた私の名前。いつか、他の人にも呼んでもらえるのかなぁ。  そんな淡い夢を見てみるが、それは、無理なことだ。分かっている。  ベランダの手すりに肘をつき、私は軽く溜め息を吐く。
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