約束の杯

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「桜ならこの世界でなくても、現実でいくらでも見れるだろうに……」 わざわざ危険を冒してまで、何故?そういおうとする表情を見てか、少女は再度クスクスと笑う。 「確かに……おかしいですよね?でも、私……この世界も……嫌いじゃ、ないんです」 視線を横に流して、少し切なさそうな顔をする少女。 「それに……みんなが頑張ってるのに……私だけ外の世界に残るのも……悪いし……」 (みんな……) その言葉に少女に仲間がいることを知る。 「仲間がいるのなら尚更。独りで出歩くことはないだろう」 少女の顔から何か事情があるのは見てとれたが、それでも自分の会話の選択肢にはその言葉しか残らなかった。 「え、あ……みんなとな……今は……ちょっと、会いたくない……かな?……なんて」 声を小さくしながら言いにくそうに、そう口にする少女の顔には悲しみが浮かぶ。 (仲間割れか……) この世界にはよくあること。ここには人間の本性をあらわにするような、そんな欲望を叶えることが可能な世界なのだから。 その中で今まで友人だと思っていた人間が、豹変して別人になってしまうことだってある。 それこそ、本人たちが気づかないうちに。 「そうか……」 「で、でも!!みんなのことが嫌いとか……そういうことじゃ……ないんです。ただ……変わってしまうのが……悲しくて……寂しくて……」 涙を浮かべ、それでも懸命に笑顔を作ろうとする、そんな少女のひたむきさに、心打たれた。 (仕方ない……) 自分は少女の隣に歩み寄ると、桜の木の下に腰をおろす。  
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