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錆びれたその踏み切りは、今にも鳴り出しそうだった。
膝をくすぐる若緑の絨毯。地平線を見渡す草原の真ん中に、ぽつんと彼はたたずんでいる。線路を伴わずに。遮断機は上がったまま、そして、二度と降りる事は――ない。
懐かしいような、寂しいような、哀しいような、まるでシャッターの閉まり切った駅前の商店街を目にした時のような、哀愁にも似た感情が沸き上がってくる。
かんかんかんかん。意味もなく一日中眺め続けたこともあった。踏み切り――見間違うはずもない、"僕の元いた世界"の建築物だった。
「どうしたんじゃ?」
ふいに、意識の外側から馴れ親しんだ声が聞こえてくる。「いや、ちょっとね」僕は振り返ることなく答えた。けれど、ひょっこりと、視界の端から彼女が文字通り顔を出す。
「ふむ、ぼーやが黄昏とる」
「そんなに顔に出てるかなあ……」
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