一日目①日常プロノメイア

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 視線を線路から彼女へ。黒い下地に彼岸花があしらわれた着物、片目の潰れた狐面は相も変わらず側頭部に。血のように赤い瞳は爛々(らんらん)と輝き、見惚れるような長い黒髪が風にそよぐ。  老人みたいな言葉に少しなまりを含んだ喋り方をする幼女。僕をぼーやと呼んで子ども扱いする彼女――『ジャジャ』は、先程の僕と同じように錆びれた踏み切りを眺めながら、 「『トロイメライ』の事を考えておったのか?」   そう訊いてきた。トロイメライとは、僕が元いた世界のこちらでの呼び名だ。ここ――『プロノメイア』からすると異世界という事になる。 「うん、まあね」  別に、核心を突かれたみたいな気概はなかった。あくまで日常会話。軽く僕が頷くと、ジャジャは途端に子どもをからかうような笑みを浮かべる。子どもみたいな見てくれをしている癖に、その余裕のある笑顔は不思議と彼女に似合っていて、何というか、とても魅力的だった。 「元の世界に帰りたいのか?」 「――まさか」  僕の居場所はここだよ、そう付け足して彼女の言葉をいなす。本当は『君の隣だよ』とぐらい言った方がよかったのかもしれないが、そこはまあ以心伝心、電波的なものに期待する。
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